2010年4月9日金曜日

ピートとパパの会話(その92 音楽の演奏時間)


ピー  「うん? 真ん中の写真は豊田勇造さんじゃんか」
パパ 「そうだよん、以前LPを出していたんだ」「シングルじゃなくて
    演奏時間の長いやつね」
ピー  「LPって?」  
パパ 「Long Playingといって、片面約24分のレコードだよ」
ピー  「1曲3分として、片面8曲分だね」
    「音楽の演奏時間というのは長短があるけど、どうしてかなぁ」
パパ 「そうね、長いのは1000年という演奏時間のものもあるし、
    ま、普通の歌謡曲なんかは3分位だね」
ピー  「千年? なんじゃそれは~」
パパ 「こんな長いのは冗談でやっているのであって、芸術的価値が
    あるとは思えない」
ピー  「クラシックでも小品集は3分位だろ?」
    「曲の時間を決定付けている要素ってのは何だろうね」
パパ 「歌謡曲やクラシックの小品集が短いのは、作曲者の感情持続が
    おおよそ3分で途切れるからじゃないかなぁ」
ピー  「それ以上は持続出来ないの?」
パパ 「う~ん、精神的に疲れるというか、緊張が持続しないんだな~」
    「何をどのように感情表現するかで曲の長短が決まるのだろうけど」
ピー  「オペラの演奏時間が2~3時間と長いのはどうして?」
パパ 「オペラは、物語を曲にしたものだからさ。小説と同じだ」
    「一時の感情を曲にあらわしたものは、3分でチョンになる」
ピー  「人間ちゅーのは、どうして感情を音に置き換えるの?」
パパ 「ま、自然界でいう求愛行動が昇華したものだろうねぇ」
ピー  「昇華? 人間は面倒な動物やのう~」
パパ 「文化と言っちょくれ」
ピー  「ジャズは、3分で終わる曲が多い気がするね」
パパ 「そうだね。それも一本調子の感情表現だ」「日本の民謡も
    似たような調子だなぁ」
ピー  「でもさ、俵星玄蕃や八百屋お七は結構長いじゃんか」
パパ 「古くさ~、そんなのよく知っているね」「この2曲は物語風
    だから長いんだ」
(長篇歌謡浪曲 元禄名槍譜/ 俵星玄蕃:たわらぼしげんば)約8分半
http://www.youtube.com/watch?v=vmrFoOMnV5E&feature=related

ピー  「八百屋お七も物語風だから約5分半かかっているね」
パパ 「この八百屋お七を宴会で歌われると途中で飽きる」
    「1時間近く演奏する交響曲に比べれば短いけどね」
ピー  「メンデルスゾーンの真夏の夜の夢とか、ムソルグスキーの
    禿山の一夜なんかも物語風だね」
パパ 「真夏の世の夢は、シェークスピアの戯曲を元に、メンデルス
    ゾーンが17歳の時に作曲したんだよ」
ピー  「ほう、17歳の感性か~」「ゴルフの遼君と同い年じゃんか」
パパ 「指揮者によっても演奏時間に差が出てくるよ」
    「ベートーヴェンの第五'運命' は、トスカニーニが振るとチョイ
    短くて29分、フルトベングラーで36分弱くらいかな」
ピー  「ほ~ん・・・」
パパ 「第六'田園' では両者の演奏時間が逆転し、その差4分となる」
    「指揮者の僅かな感性の違いが演奏に影響を及ぼし、そのため
    このような時間差が生じるんだろうね」
    「だから、放送局が録音盤をかけるとなると、 同じ曲でありなが
    ら時間調整が大変になる」
ピー  「ええ? どうするのさ?」
パパ 「放送時間が足らなくなると、僅かに曲のスピードを早くする」
    「ほと、音色が変わるから絶対音感の持ち主は?となる」
ピー  「な~んかマラソンのタイムを計っている感じだなぁ」
パパ 「時間だけじゃなく、作曲者の精神状態が、各楽章の作風に与える
    影響もなかなか面白い」
ピー  「精神統一が出来なくてバラバラになるのかい?」
    「それとも気が変わるとか?」
パパ 「その違いを楽しむと言えばそうなんだが~・・・」
    「んじゃ、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番'月光'でその差を
    聴いてみよう」
    「ウクライナのヴァレンティーナ・リシッツの演奏だよ」
    「欧州文化の感性を共有しているから、 ホロヴィッツの演奏と
    遜色がない」
    「全楽章で14分の演奏だ。先ず第一楽章と第二楽章ね」
 (月光第一、二楽章)
http://www.youtube.com/user/ValentinaLisitsa#p/u/11/UHd8jwXBzXE

ピー  「中学校で聴くのは第一楽章のみだね」
パパ 「それでは第三楽章を聴こう」
 (月光第三楽章)
http://www.youtube.com/user/ValentinaLisitsa#p/u/12/zucBfXpCA6s

ピー  「なんじゃこれは~、同じ作曲者とは思えないねぇ」
パパ 「第一楽章は、ロマン派の詩人ルートヴィヒ・レルシュタープが
    言ったルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟、のような表現だ」
ピー  「第三楽章との差は数分だろう?その数分間に何が起こったのさ」
パパ 「ま、数分間で作曲した訳じゃないからさ」
    「では、ベートーヴェンの心模様を少し考察してみよう」
ピー  「ほら始まった・・へへ」
パパ 「この曲は、ベートーヴェンの不滅の恋人、イタリアの伯爵令嬢
    ジュリエッタ・グイチャルディに捧げるために作曲されたんだ」
ピー  「ほほう、パパの言う求愛行動が昇華した曲だね」
パパ 「第一楽章は、ジュリエッタに対する想いを切々と表現している」
    「この楽章は、まるで詩人のような精神状態で作曲されている」
ピー  「ふ~む、第二楽章も同じような感じだね~」
パパ 「ところがじゃ、ベートーヴェンは、第三楽章に差し掛かる手前で
    フっと自分の境遇を思い出したのさ」
ピー  「ジュリエッタとは、14歳という年齢差があったから?」
パパ 「それよりも、ベートーヴェンを悩ませたのは、相手が伯爵令嬢
    だったことと、自分が病気がちだったということさ」
ピー  「山口百恵のイミテーション・ゴールドだな」
    「・・若いとおもう 今年の人よ 声が違う 歳が違う 夢が違う
    ほくろが違う・・、ってね」
パパ 「なんじゃそれ?」
ピー  「で、それを第三楽章手前で思い出したと?」
パパ 「でなければ、突然このような発狂したような音楽表現には
    ならん」 「しかし、この物凄い抑え難い感情の高ぶりを伴った
    音楽表現が、 パパは好きなんだな~」
ピー  「またどうして?」
パパ 「ハイリゲンシュタットの遺書を書く前のベートーヴェンの
    精神状態を最もよく現しているからさ。1801年の作曲だ」
ピー  「ハイリゲンシュタットの遺書を書いたのは1802年だったね」
パパ 「人生で最も悩んでいた頃だ」
    「しかしだよ、中学校で習った’月光’には問題がある」
    「その問題のために第一楽章しか聴かせられなかったと、
    パパは 考えているのじゃよ」
ピー  「問題って何よ?」
パパ 「音楽の先生は、ベートーヴェンが盲目の少女のピアノ演奏に
    魅か れて、その場で月光を作曲した、と教えた」
    「しかしこれは、日本で作られた物語だ」
ピー  「ほと、物語のイメージからして、強烈な印象の第三楽章は聴かせ
    られないんだ」「日本の音楽教育は変だねぇ」
パパ 「音楽は、その曲を作った作曲者の精神状態やその感情を踏ま
    えて聴くことで、より多くの感動が沸いてくると思うんだ」
ピー  「そうでなければ、単に音を聴いているだけなんだね」
パパ 「そう、ブラームスの弦楽六重奏曲も、シューマンの妻クララへの
    想いを曲に託したものとして聴くと、新たな感動が沸いてくる
    というものだよ」
ピー  「なるほど~、そういう聴き方もあるんだね~」
パパ 「では、 ベートーヴェンの'熱情' を聴いてみよう。これは遺書後
    の作品だから、同じ第三楽章の高まりでも、少し感情の抑制が効
    いている」
 (熱情 第三楽章) 7分半
http://www.youtube.com/watch?v=xz7usUEPWsc&feature=fvw

ピー  「う~ん、おいらには大差なく聴こえたけどねぇ」
    「それよりも、ベートーヴェンは感情の起伏が激しすぎるよ」
    「まるでゴッホのようだ」
パパ 「それがベートーヴェンの最大の魅力だ」
    「芸術家は、感情の起伏が激しいから芸術家足りうる」
    「その激しさが人々に感動を与えるというもの。小説家も然り」
ピー  「ベートーヴェンって、古典派だろう?」「それにしては個人の
    感情が剥き出しだね~」
パパ 「古典派とロマン派の中間だね」
    「でも、音楽表現としては、ロマン派の方が優雅で正に浪漫的だ」
ピー  「ロマン派とは、どういう派なの?」
パパ 「古典派が形式を重んじたのに対し、ロマン派は形式より個人の
    感情表現を重視した」
    「ロマン派の音楽は、情緒的、主観的、空想的だと言える」
ピー  「ちゅーことは、フランス革命に起源を持つ自由思想から来ている
    んだね」
パパ 「んだ、形式主義の打破だ。それによって作曲者自身の個性が強く
    出てきたのがロマン派の特徴と言えるね」
    「例えば、同じ年代でありながらショパンとシューマンの作風は
    全く違う」
ピー  「バロックや古典の音楽が、どれも似たような作風なのは、形式に
    縛られているからか~」
パパ 「多分そうだろうね」
ピー  「作曲者の昇華した感情表現かぁ」「音楽の聴き方が変わるね」

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