2011年9月7日水曜日

ピートとパパの会話(その129 音楽と学習臨界期(後編(2))

ピー  「今日は、後編(2)の話だね」
パパ 「以前、会話の中でジャズの変遷について話したのを覚えて
    いるかい?」「先ず、それを思い出してみよう」 ↓
 
http://hiroigui.blogspot.com/2008/07/jazz_26.html

ピー  「あ~、マイルスか。思い出したばい」
パパ 「それでは、ヤンチャ坊主とお坊ちゃまの演奏の違いを聴い
    てみよう」
    「ヤンチャ坊主は、ビーバップの権化。お坊ちゃまの演奏は、
    荒々しさが無く大人しい演奏だ」

ヤンチャ坊主(チャーリー・パーカー ’KoKo')


お坊ちゃま(マイルス クールの誕生から 'Move')


パパ 「Moveは、ビーバップの形態は残しているものの、イントロ
    からスウィングに後戻りしたような印象を受ける」
    「特徴としては、演奏にアンサンブルの復活が聴き取れる」 
ピー  「これ以降、マイルスのクールジャズが主流になって行くの?」
パパ 「クールジャズは、ほんの一瞬の出来事だと思っている」
ピー  「うん?」
パパ 「クールの誕生は、ビーバップから決別したかったマイルスの
    宣言に過ぎないと、ワシは考えているのじゃよん」
    「だから、決別のインパクトはあったものの、マイルス自身は
    クールを少しやっただけだ」
ピー  「インパクト?」
パパ 「黒人の解放感とは別の雰囲気が出てきたからね」
    「それによって、白人にもジャズが広まって行くようになった」
    「後に開花するウェストコーストジャズがそれなんだ」
    「これは、マイルスの功績だね~」
ピー  「ふ~ん。それでビーバップから決別した理由は、パパの言う
     学習臨界期における’育ちの良さ’なのかい?」
パパ 「繰返すが、そのことを語ったのが ↑ の’ジャズ編その3’だ」
    「ここに、マイルスジャズの本質がある」
ピー  「色々と考えちょるんだねぇ」

パパ 「クールジャズが衰退して行った理由は、当時の米国社会の
    経済的理由にもあるのだが、長くなるから触れないね」
ピー  「ジャズ界が不況になった?」
パパ 「で、マイルスは考えた。もう一度ビーバップに戻り、そこに
    黒人の間で流行っていたR&Bやラテンのリズム感を取り
    入れ、ジャズの活性化を図ろう。 とね」
ピー  「そういうマイルスの発想自体、ジャズの商業化だよね~」
パパ 「R&Bでビーバップの荒々しさを抑制すれば、自分の感性
    とも矛盾しなくなる。 と、マイルスは考えた筈だ」
ピー  「本当か知らん?」

パパ 「ここからが、マイルスの真骨頂なんだよ~」
    「ほんで、ビーバップをより複雑化し、コード進行と共に
    スケール(音階)を重視したハードバップという演奏スタイル
    を作り上げた」
ピー  「それが皆さんよく言うハードバップかぁ」
パパ 「暫くはこのスタイルで行くが、ビーバップ同様コード進行の
    限界が存在していた」
ピー  「どういうこと?」
パパ 「コード分解によるアドリブの範囲に限界が見えてきたんだ」
    「限界があると言う事は、最終的に誰がやっても似たような
    演奏になるちゅーことだ」
ピー  「それは~、目立ちたがり屋のマイルスにとっては耐え難い
    ことだな~」
    「なら一層、スウィングに戻れば~」
パパ 「ここで、マイルスのハードバップの代表作を聴いてみよう」

マイルス (All of You)


ピー  「よう分からんが、ビーバップよりメロディが少し前へ出て
    きたような」
    「それに、ソロのアドリブがハチャメチャでなくなったなぁ」
    「でも、このハードバップも限界が来るんだって?」
パパ 「そこでマイルスは、更なる試行錯誤を繰返すことになる」
    「ジュリアード音楽院で学んだ経験も生きてくるんだよん」
ピー  「そーれから?」
パパ 「従来のコード進行を後ろに引っ込め、スケールに旋律を加味
    したモードを主体にすることで、よりアドリブの自由度を増す
    ことに成功した」
ピー  「偉い奴じゃの~、マイルスは」
パパ 「しか~し反面、ビーバップがもっていたジャズの開放的な
    躍動感が希薄になった」
    「それに、この自由を追求したアドリブの問題が、実は~、
    最後までマイルスを悩ますことになる」
ピー  「おいらは 'ふーん' としか言いようがないなぁ」
パパ 「では、ビーバップと決別し、クールジャズからハードバップを
    経て、より自由なモードジャズに辿り着いたマイルスの
    'Dr. Jackle' を聴いてみよう」「ソロのアドリブに注目!」

マイルス (Milestonesから 'Dr. Jackle' )


ピー  「なんじゃこりゃ! ビーバップに戻ったんじゃないの?」
パパ 「ビーバップは、アドリブに入ると元のメロディが分からない
    ような展開を見せる」
    「じゃが、モードジャズは、最初のメロディを基調とするから、
    アドリブに移っても、そこから派手に逸脱することはない」
ピー  「フレーズに連続性があるのかぁ」
    「モードちゅーのはそういうことか」
パパ 「それでは、モードジャズの代表作をもう一発」

マイルス (Kind of Blueから 'So What' )


パパ 「この演奏からマイルスの理知的で都会的なセンスが伺える」
    「これは、チャーリー・パーカーには無い育ちの良さだ」
ピー  「でも、音楽理論から分析的に聴いてみても、訳が分からん」
    「ビーバップもハードバップもモードも、皆同じに聴こえるよ~」
    「分かるのは、曲が違うということだけだよ」
パパ 「わしもよく分からん。実際は、自分で演奏しないと理解で
    けんよ」
ピー  「おいらは、聴いてみて判断することにしよう」

パパ 「ま、この時代は、ハードバップとモードジャズが複走混在
    しており、素人にはさっぱり判別がつかないちゅーのが
    現実だね」
ピー  「ややこしいのぉ」
パパ 「普通に聴いている分にはどうでもエエことだし、どうとか
    言っているのは、評論家がジャズの変遷を説明し易いように、
    音楽理論上のことをチョコッと言っているに過ぎない」
ピー  「ふ~、実際のところ、素人には皆同じジャズだということか」

パパ 「要するにジャズの革命的な変遷は、スウィングからビーバップ
    へ変わった一度だけで、後はビーバップの亜流に過ぎないと、
    ワシャ~考えちょんのよ」
ピー  「ほとジャズは、スウィングとモダンジャズという2分類だけで
    いいじゃん?」
パパ 「そうだけど、後編(2)で言いたいのは、学習臨界期での生活環境
    の違いが、ジャズの演奏形態に変化をもたらしたという点だ」
    「これにスウィング、ビーバップ、クール、ハードバップ、
    モードといったジャズの変遷を重ね合わせたのさ」
ピー  「するとだね、マイルスがお坊ちゃまでなければ、ジャズは
    ビーバップのままだったかも知れないと?」
パパ 「何れは変化したのだろうが、お坊ちゃまの出現によって、急激に
    変化して行ったということじゃわい」

ピー  「こじ付けじゃないのぉ~」
    「おいらが考えるに、モダンジャズの変遷ちゅーのは、自由を得る
    ためのアドリブが、その武器であるコード進行に、逆に縛られる
    という矛盾を次々と生んで行った結果だ」
パパ 「そう、それが最終的に、誰もが似たような演奏になるという
    コード進行の限界に繋がった」「更にはモードそのものも、演奏
    上の限界を持つようになった」
ピー  「だから次々と演奏理論を変えなくてはならない羽目に陥った?」
    「これは自己矛盾だな~」
    「結局ジャズは、アドリブの問題だ!」
パパ 「鋭いね~」
ピー  「会話をしていると、次第に理解が深まってくる」

パパ 「さてと、すっかり本題から逸脱したが、学習臨界期の生活環境は、
    その後の人生を決定付ける重要な要素になると考えられる」
    「特に、マイルスの幼少期の環境が、ジャズ界に様々な影響を与え
    たことは、特筆すべき点だね」
ピー  「ヤンチャ坊主は革命を起こすには必要だが、その後はきちんと
    教育を受けたお坊ちゃまの感性が必要だと言うことかな?」
パパ 「まあ~ねぇ・・・。これは人間の多様性だと考える方がエエ」

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