パパ 「今日は、音楽と学習臨界期について話そう」
ピー 「臨界? 核分裂反応のことじゃないだろうね?」
パパ 「先ず、この曲から聴いてみよう」
ピー 「井上陽水の少年時代かぁ~」
パパ 「歌詞は意味不明な単語の羅列に過ぎないが、メロディが
美しいので、歌詞もその中に自然と溶け込んで流れている」
「これは、井上陽水の真骨頂だねぇ」
ピー 「ほほう、西洋のPOP SONGを聴いているようなものだね」
「歌詞の意味よりも、リズムやメロディに心が動くんだ」
パパ 「ま、この歌は、陽水自身の少年時代の追憶を感覚的に
綴ったものだ」
ピー 「それで~え、この歌と今回の話がどういう関係なのよん?」
「そもそも表題の学習臨界期って何?」
パパ 「学習臨界期てーのは、主に心理学や言語学に出てくる用語で、
行動パターンの形成期や言語習得期のことを指している」
ピー 「はん? 音楽とも関係ある?」
パパ 「当然音楽にも同様の学習臨界期がある」
ピー 「すると、音感教育なんかもそうだね」
パパ 「学者は、生まれてから凡そ思春期までの期間を学習臨界期と
呼んでいる」
ピー 「それが、陽水の’少年時代’を持ち出した理由か~」
「ほと、陽水の音楽的感性の源は、彼の少年時代にあると?」
パパ 「そうだと思う」
ピー 「三つ子の魂百までだね」
パパ 「んだ。むか~し、演奏家と話をしていたら、’何事も二十歳
までに経験しておかないと駄目だなぁ~’なんて言っていた」
ピー 「歳をとると中々身につかないという事かな?」
パパ 「そうかもね。だから学習臨界期という考え方があるのさ」
「この時期に無茶苦茶勉強すれば、脳の活性化方向が無茶苦茶
勉強向きになると、ワシャー考えとるのよん」
ピー 「本当か知らん?」
パパ 「言語学では、この時期以降のことを臨界期仮説と呼んじょる」
「新しい言語を身につけるのが難しいと考えられる時期に入るんだ」
ピー 「臨界期仮説? 学問ちゅーのは、内容より用語の方が難しいなぁ」
パパ 「そこでね、皆さん歳を重ねると、演歌に傾いて行く人が多いが、
それが何故なのか? というのが表題の主旨だ」
ピー 「そういや~以前、そのようなことを言っていたね」
「今回、そのことをおいらと話そうってのかい?」
「ややこしいことを言っても、おいらには ? だからね」
パパ 「人間は、ピークを過ぎると幼少期から少年期にかけて経験した記憶
に回帰して行くような気がしてならない。というのが話の始まり」
ピー 「幼少期から少年期の記憶とは、つまり学習臨界期のことだね」
パパ 「人間の学習臨界期は、大まかに見積もって二十歳頃までだと、
ワシは 考えているんだ。そこが脳のピークだ」「それ以降は、記憶の
蓄積を 取り崩して行くような発想になる。ま、記憶の応用だね」
ピー 「事実だとすれば、不思議な現象だ」
(ダリ作:記憶の固執 中学生の頃、この絵にどえらい衝撃を受けた)
パパ 「これは、原始時代の人間の耐用年数というか、当時の30年という
平均寿命が影響していると考えているんだ」
「未だその30年に脳が支配されている。というのがワシの見解だ」
ピー 「ほう、例のミトコンドリア・イブ以来、脳のDNAが20~30万年間も
進化していないと考える訳?」
パパ 「何故だか進化のスピードが遅い気がする」
「分子時計が止まっているようだ」「地球規模の自然変動も無いし、
それが理由かも知れない」
ピー 「ほと、原始時代の脳から考えて、二十歳以上の人生は物事を吸収
するのではなく、昔の記憶に頼って脳が対処しているに過ぎないと
言うこと?」
パパ 「だから次第に物覚えが悪くなり、考え方は保守的になり、その後は
昔のことばかり言い出す」「つまり、記憶への回帰現象が始まる」
「というか、生理的に学習臨界期の記憶しか残らなくなる」
ピー 「ほほう、ニーチェの文学,永劫回帰だね~。NHKでもやっちょった」
「大体人間は長生きし過ぎだべ」
パパ 「そういう意味では、臨界期記憶への回帰は、終末期における脳の
自己防衛作用かも知れない」「老化に対する生への執着だ」
ピー 「昔の記憶で現在の人生を置き換えようと?」
パパ 「多分ね。老いへの不安が、脳をそうさせるのだろう」
「ってことは、潜在的に30年以上の人生が想定されていないんだな」
ピー 「脳は、耐用年数を過ぎると死への軟着陸を準備するんじゃない?」
パパ 「これはもうフロイトの世界だねぇ」
ピー 「脳とは不思議なものじゃの~」
パパ 「何故そうなるのかは、脳生理学の研究者に任すとして、先へ進もう」
ピー 「へい」
(左はフロイト. 右はムンクと有名な'叫び' 何故かフロイトとムンクが同一人物のような気がする)
パパ 「学習臨界期では、言語のみならず固有の風俗や伝統的な文化に
よって、複合的に脳への刷り込みが行われる」
「記憶への回帰現象を考える上で、ここが非常に重要な部分だ」
ピー 「刷り込み? ローレンツの実験だね」
パパ 「ほら、日本では’おふくろの味’とか言うじゃんか」
「この学習臨界期に記憶されたことが、後に回帰現象として青年期
以降の嗜好に現れてくる。と、ワシは考えちょるんよ」
ピー 「音楽で言えば、それが演歌であったりする訳なんだね」
パパ 「そうなんよ。しかし、よく見なければならないのは、生活環境に
よって学習臨界期の経験が異なることだ。それが個性になる」
ピー 「う~ん、分からなくはないけど~?」
パパ 「例えばね~、笈田敏夫というジャズ歌手がいた。と、言うことから
ぼちぼち後編に入って行こう」
「本日は、ここまでですぅ」
つづく
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